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本当のBCPとは?

4M規制を乗り越えるために

はじめに

 この文書の目的は、「巷で恐れられている4M規制をどうすれば現実的に乗り越えられるのか?」をゼロベースで考えて道筋を探し出し、読者に果敢に挑戦していただくことである。

 この思いに駆られた切っ掛けは、日本中の多くの購買組織の方々から「自由に購買することが理想だと分かっている。でも、ユーザーからの4M規制があって実質的には如何ともしがたいのです」と聞かされる場が非常に多かったことである。

 一方、東日本大震災以降も次々と発生する自然災害に我が国は見舞われており、原料の安定的な確保が決して容易ではないと言う緊急事態の発生も直視しなければならない状況である。

 必要性が声高に叫ばれる中で実質的な意味でのBCPが問われている。

 

1.  購買のBCPとは

 先ずは、購買のBCPに思いを巡らすことにする。

 

1.1 サプライチェーンはBCPでも主要な要素

 BCPには様々な要素が含まれるが、サプライチェーンはその中でも主要な要素である。特に製造業においては、原料と製品の面で意外と自由度が低く、深刻な事態に陥る危険を孕んでいる。

 

1.2 最も確かな購買のBCPは海外品の導入

 サプライチェーンは原料購買と製品販売が綿々と繋がった大きな流れである。一箇所でも何らかの原因で滞れば、たちまちにして全体も停止してしまうことになりかねない。

 一方、BCPと言うと頭の中で考えて纏まった資料・文書や行動計画を作ることと思われがちだが、それに留まっているようでは具体的な実効は期待できない。

 やはり具体化の行動を伴わなければ絵に描いた餅でしかない。

  原料購買では具体的にどうすることがBCPたり得るのか?

  製品販売の場合は、どのような具体化が必要なのか?

と言ったレベルまで落とし込んで行動をしなければ単なる自己満足である。

 東日本大震災直後にBCPと言う言葉が大流行し、各社で大規模な活動が開始されたと聞く。しかし、サプライチェーンの克明な調査をして書類が出来上がっただけになっているとの実態が多いとも聞いている。

 「原料の供給先が日本国内で東西など数カ所あるから大丈夫」などと言った話で片付けたり、「緊急事態でも安定供給を口頭で約束させたから心配ない」とか、「売買契約書にも緊急時の供給義務を加えたから問題はなくなった」などと言っていないだろうか?

 「どんな緊急事態になっても弊社にだけは対応して貰えるはずだ」と言う勝手な期待をしている点で基本的な間違いを犯している。そのようなことなどあるはずがない。

 このことを真剣に追求して行くと、筆者は海外品の導入しか有効策はないと思う。例えば、地震と不可分な日本の地質学的弱点に対抗するには、同じプレート上ではない他国から原料を購買することしか本当の解はないと思えるからである。

 結局、原料購買のBCPを突き詰めていくと海外品の導入を実施することが最も有効策である。

 

1.3 最大の壁:4M規制

 となると、この具体化に立ちはだかっているのは4M規制の壁である。

 ご承知の通り、4M規制とは、人(man)・ 機械(machine)・方法(method)・材料(material)の変更を禁じることで品質を安定に維持できると言う、ものづくりに際しては、欠かせない考え方となっている。

 この考え方に立てば、今購買している国産原料に新たに海外品を導入するとなると、材料の変更に相当する行為だから4M規制に反しており、ひいては品質の変化になるリスクがあると言う論理展開になっている。

 結局、4M規制が原料購買のBCP問題の解消を強制的に禁止すると言う構造になっているのである。

 

1.4 4M規制は変更可能と買い手は言うけれど・・・

 元来、この品質安定化のための4Mの考え方は品質管理やISOで使われているものである。

 しかし、それらの中で4M規制と言う言葉は使われておらず、4M変更管理と言う言葉である。このことは変更を禁止する意図ではなく、変更する場合はその行為をチャンと管理・記録し、いざとなれば過去の製造状況を追跡できるようにしておく必要があると言っているに過ぎない。

 ところが、4M変更管理がいつの間にか4M規制に変貌しているのである。そして、4M規制が横行しているのが現実となっているのである。

 「貴社の安定的な原料確保のためには4M規制では不味いでしょう?」と買い手に迫ると「いやいや弊社では4M規制を求めてはいません。4Mの変更が必要となる場合は事前に教えていただき、両社が納得できれば変更できますよ」と受け答えされると聞く。

 「では購買原料の変更をさせていただけませんでしょうか?」と提案すると「しかし、社内でも色々と面倒なことがあるし、反対する人もいたりします。ですからハードルが高いことはご理解下さいよ。勿論社内でも負荷が掛かることになりますからお安くしていただかないと動かないと思います」となったりして、結局は4M規制の呪縛から容易には抜け出せないのが実情のようである。

 

1.5 非常識な4M規制になっていないのか?

 以上の話は、頑なな4M規制には誰も納得してはいないが、色々なことを考えると実際上緩和は困難と言うことに繋がっている。

 「非常識な4M規制になっていないのか?」と言う問い掛けをし続けることが肝要と言えるのではないだろうか?

 

2.  原発事故

 少し話は変わるが、2011年に起こった原発事故について考えてみる。

 

2.1 天災か人災か?

 原発史上で最悪とも言われている8年前に起こった悲惨な事故は今でも読者の脳裏から離れてはいないのではないだろうか?

 海水を飲み込んだポンプの停止、冷却機能停止によるメルトダウン、水素爆発による放射線の多量な飛散、広範な周辺地域の全員退去と立ち入り禁止、東日本を覆う放射能、汚染をはぎ取った放射性土壌の山積み保管状況、放射能を含む水による海水汚染と海の生態系の破壊などなど、思い出したくもない酷い状況だった。

 今まで声高に喧伝されていた安全神話は1回限りの津波で完全に崩れ去った。原子力技術者達はリスクの確率論の危うさを思い知らされたし、曖昧さを政治決着してきたやり方にも厳しい批判の目が注がれた。

 誠に残念なことだが、筆者はこの原発事故は明らかに人災だと考える。いやいや、天災で片付けることなど到底できるはずがないと思うのである。2度とあってはならないことなのだから。

 

2.2 急激に高まった安心への期待感

 この事故以来、東北地方の農産物・海産物は十把一絡げで避けられ、定量分析の結果安全だと検証し続けても、風評被害が続き、今ですら完全な払拭は容易ではない状況である。

 安心への限りない重要度が一気に膨れあがった。

 

2.3 求められるゼロリスク

 では、この原発事故はどう捉えたらよいのか?

 世間で起こる通常の事故・事件などとは桁違いに影響度が大きいから、2度とあってはならないと思う。だから、筆者は、原発に関しては絶対的なゼロリスクが求められるべきだと考える。更に、人類が期待してはならない発電方法であるとも思う。

理由は沢山あるが、代表的なことを挙げると次の通りである。

  原発にはそもそもブレーキがないので、問題が起きても直ぐ止められず長時間の放置が避けられないこと

  今回から学んだように、1度の事故が日本の半分を重大な危機に陥れるほど被害は甚大であること

  1度の事故の完全解決のために一体どれだけの国家予算が将来に亘って投じられることになるのかも全く不明で、それを含めると、原発の経済性自体が完全に吹っ飛んでしまったこと

  原発のゴミ処理がいつまで経っても見通しが付かないこと

  既存の原発が全て廃棄処分になる時が来たら、必要となる全費用が膨大と予想されること

  全ての原発をリスクゼロにするためにどれだけ巨額が必要になるのかも想像できないこと

  原発が全て止まった状況下でも深刻な経済状況は発生しなかったこと

 

3.  ダーウインの進化論

 少し話は逸れるが、進化と退化の関係はどうなっているのかも見ておこう。

 

3.1 安心第一主義の呪縛

 原発に関しては絶対的なゼロリスクが求められると筆者は上述した。原発の場合は使わないと言う選択肢がある。原発による発電を一切しないと言うこともできるのである。

 一方、生存に関しては「生きない」と言う選択肢はそもそもない。あるのはどう生きるかだけである。

 この場合、安心第一主義と言うのは拠り所になり得るのだろうか?何もしないでジッとしていると言うことは可能なのだろうか?

 

3.2 変化できることは進化できること

 進化論は、周りの環境に自らが順応することを通じて進化し続けて来たと述べている。変化できたからこそ進化に至ったと。

 

3.3 生き残る道は進化しかない

 何もしないでジッと時間が過ぎるのを待っていたら退化や死が来ることを意味している。生き残りたければ進化するしか道はないのである。

 

3.4 この世にゼロリスクはあるのか?

 ところが、最近、リスクは限りなくゼロが望ましいとか、ゼロを追求しなければならないと言った思い込みが巷に蔓延して来ているように感じるのは筆者だけだろうか?

 読者の周りで、

  何かと言うとリスクがないことを確かめようとする

  リスクゼロを求めようとする

  リスクゼロでないことを問題視する

  それは不味いと言われる

と言う場面に遭遇していないだろうか?

 この世の中にリスクゼロと言うのは果たしてあるのだろうか?

 何もしないのは一見リスクゼロと思いがちだが、実は、退化や死のリスクがあるのだ。逆に、何かしようとすれば少なからずリスクは伴うのではないか?リスクゼロだからそれに取り組むと言うのであれば、それはそもそも価値があることなのだろうか?

 ズバリ、筆者はリスクゼロが幻想に過ぎず、そのようなものはない、と言い切りたい。

 

3.5 前提条件の発展的な破壊

 結局、変化すること自体にこそ価値があり、変化のお陰で進化があり、変化をすれば退化や死を防ぐ効果があるのだ。

 そして、変化する際の目の付け所は、気付きにくい隠れた前提条件を発展的に破壊することであると言えるのではないか?

 

  4.品質保証の仕組み

 さて、4M規制の拠り所になっている品質保証の仕組みについて見てみる。

 

4.1 組織ぐるみの構造的な緩み

 最近、世間の常識を覆すような事件が絶え間なく起こっている。やっていなければならないことが守られていなかったとか、データを都合の言いように改ざんしたとか、リコール隠しとか、燃費データのシステム的な偽造とか、無資格者による検査とか、産地・原料の疑似表示とか、挙げれば切りがない。

 TVの報道を見るとどこも一緒で、社長や経営者が頭を下げ「原因を究明して再発防止に努めます。私は知りませんでした。」と言う言葉を乱発する。会社組織なのに社員が勝手にやったなど到底考えられないと思う。

 社外には厳しい4M規制を徹底的に求めるのに、社内はこんなにもお粗末なのか?と憤りすら沸いて来る。

 

4.2 品質保証の責任

 ところで、品質保証の責任は一体誰が負っているのだろうか?

一般的には品質保証部門が責任を果たすべきとなっているが、それでできることなのだろうか?

社内のどこかの強制力が働けば所詮はサラリーマンである。完全な抵抗など不可能である。

 結局、社員全員の身分保証された自由な発言権と、とりわけ強権を発動できる立場の人達全員で英知を注いで果たすべきことなのではないかと思う。

 

4.3 品質保証と4M規制

 1.4で既に述べたように、品質保証と4M変更管理は厳密に関連づけられているが、品質保証=4M規制と言う言い換えが横行しているのが問題と考える。

 具体的には、4M規制と4M変更管理を適正に使い分ける柔軟さが肝要なのである。

 

4.4 生命に関わる用途での品質保証の重大性

 今述べた使い分けの柔軟さの典型例は、生命に関わる用途かどうかを区別することである。

重大なものでは4M規制に近い条件が必要であるし、それ以外であれば4M変更管理で十分なはずである。

 以下、ここに分類されそうな代表的な用途を挙げてみる。

 

4.4.1 医農薬

 生命に関わる用途の代表格は医農業である。生命体が飲んだり、注入したり、貼ったり、吸い込んだり、塗ったり、など体に直接的に作用するものであるだけに、リスクは低い程望ましいと言える。

 必然的に、これらには承認・認可・登録などが求められるし、その過程で使われる原料への4M規制が掛けられている。ここではAPIの化学物質名が同じであることでは不十分で、添加剤も含めて、メーカー・グレード・商品名・製法・純度・微量成分の含有率・製造設備・製造マニュアルなどなど全ての条件が変更禁止とされるのは当然である。

 

4.4.2 食品

 食品も上記とよく似た状況で使われることになるので、一定の水準を確保するための法規制がある。

 

4.4.3 食品添加物

 食品に比べると添加量は少ないものだが、ほぼ上記と同様である。

但し、法規制で定めるスペックを満たせば、同一化学物質名の範囲内での原料変更(メーカー変更、グレード変更など)は可能となっている。

 

4.4.4 自動車部品

 自動車部品は単純に切り分けが困難視され、生命に関わる用途かどうかを精査する必要がある。

 

4.4.4.1 駆動系(タイヤ・ブレーキなど)

 駆動系の不具合は運転者自体の交通事故に直結するので厳しい品質保証が求められるはずである。従って、4M規制に近い条件が通常求められる。

 

4.4.4.2 その他の能動部品

 駆動系とほぼ同様で、生命に関わって来る可能性が高い。

 

4.4.4.3 電子制御部品(自動運転ソフトを含む)

 電子制御部品も同様と想定される。

 

4.4.4.4 安全部品(エアバッグ・シートベルトなど)

 安全部品は車の走行とは直接関係しないが、交通事故の際に生命を守る部品となるので厳しくなっている。エアバッグのインフレータの火薬の化学物質変更に由来する事故が問題になったのはこれに該当する。

 

4.4.5 その他の用途、その他の業界では?

 以上は代表的なリスクが高いとされる用途であるが、その他の用途、その他の業界はどうなるかは個別に精査する必要がある。

 実は、この部分に該当するものは非常に広いと考えられ、この中には不合理な4M規制が多く含まれていると推察する。

 

4.5 品質保証とは守ることだけなのか? 

 筆者もISOの品質保証に関わっていた経験がある。当時、この問題意識を抱いて仕事をしていた。

 上述のように見て来ると、品質保証は現状維持することだけの役割ではないことが見えてきたはずである。守る以外に、品質向上もあるし、品質をユーザーの要望に沿えるように変化させていくことも仕事である。

 勿論、4M規制を4M変更管理に変える役割もある。

 しかし、これらの行動は特定の組織だけでやれることではないので、研究開発や製造技術などの実働部隊、購買部門、品質保証部門、更に営業を含めた事業部門とも連携した動きが必要となる。

 

4.6 品質過剰の視点も 

 更に、品質過剰の視点も欠かせない。

 4.1で述べた記者会見では「検査データは確かに改ざんでしたが、数値が未達だと言っても問題を発生することはございません。」と言ったコメントも多々聞いた。

 このことは、買い手が要求する品質レベルが高まる一方で、現実的には非科学的に高い値を求める歪みも含まれていることを示唆するものである。

 日本製は品質が高いとよく言われるが、ユーザーや世の中に取って価値のあることなのか?自己満足的な差別化のようなものなのか?と言う点も同時に問う必要がある。案外、品質を下げることも重要かも知れない。

 

4.7 4M規制を克服する気概が消滅寸前

 セミナー講師を勤めており、あるいは購買組織の方々と会う機会が多く恵まれている筆者は、多くの会社の購買と話をする。

 そこで聞かされることは「4M規制があるから絶対無理です。」と言う発言である。元来売買は対等な立場での取引であるはずなのに、それ程までにユーザーから強制されているのか?と驚かされる。

 売買契約書の中で約束させられるそうである。しかし、社内で法務審査をすると不平等契約として承認されないので、法務審査にせず営業内で内密にしているとも聞く。

 

  5. 売り手側の諦観 

 ここまでで前半部分を終えたことになり、以下では克服策を模索して行く流れになるので、再度、現状を整理しておく。

 筆者が危機感を感じるのは、売り手側が完全に4M規制を何とかしたいと言う情熱を放棄して諦観に浸っていることである。

 何故なら、この課題に火を付けるのは売り手側の役目だと思うからである。大概のユーザーは現状が上手く行っていると思い込んでいるから、ユーザーからこの必要性を強く抱く人などいるはずがない。

 売り手側から4M規制の緩和を提案しなければならない。

 

6.  4M規制のデメリット

 4M規制のメリットなどを上述して来たが、物事には全て表と裏があることを忘れてはならない。

 以下、デメリットを見ておく。

 

6.1 分からないから4M規制を売り手におst受けておけば良いのか?

 ユーザー側が面倒さをなくすために考えることは、「解き明かせないなら他人に責任を負わせておけば良い」と言う発想である。

 しかし、これを多用するとどんどん意味のない4M規制が増殖していく。果たしてこれで相互のWin-Winは成り立つのだろうか?

 

6.2 4M規制には弊害もある

 では弊害とは何か?代表的なのは以下の2点である。

 

6.2.1 本物の購買のBCPが進まない

 1.2から1.5で示した通りである。本物の購買のBCPには長い道のりが必要だし、多くの協力者がいなければ叶えることはできない。

 一方、止めるのは実に簡単で、「4M規制は崩せない」と言う誰かの鶴の一声で片付いてしまう。

それ程までにこのデメリットは強烈なのである。

 

6.2.2 経済性との両立も重要

 往々にして品質を口うるさく言う人に限って経済観念が欠如しているとか、経済性に無頓着な場合が多い。ISOでも経済性の判断基準は通常入っていない。

 しかし、現実の世界では品質と経済性は両立しなければビジネス上意味がない。

 では何故、4M規制は経済性を削ぐのか?

 新規参入を許さないことが競合性を封じ込めるからである。購買では常識だが、競合こそが購買を有利にする特効薬なのである。1社購買の構造は言い値で買うしかない最悪の道である。

 

7.  自然科学と心理学

 この世は、自然科学と心理学が案外せめぎあっていると感じることがある。

 人類の発展は自然科学の力で大きく発展を遂げて来た。今日の平和で幸福な社会も科学技術なしには不可能である。

 一方、人間は、理性と共に感情の動物でもあり、この世の葛藤や争いなどは心理から由来している面も多い。消費者団体の主張などはややヒステリックで心理学そのもののような気がする。

 自然科学と心理学はある種の裏表のような関係でもあると思う。

 

7.1 安全と安心

 2.2で安心感への期待が非常に高まっていることを述べた。

ところで、安全、安心とは一体何なのだろうか?

 筆者は、安全は科学的なもの、安心は心理学的なもの、と捉えている。

 科学的とは何らかの自然科学的な根拠やデータを使うことで物事の確かさを判断することであり、安全は科学性と関係づけられる。自然科学は虚偽がなく再現性も検証されている普遍的なものであるから、絶対的な価値基準となるものである。その意味で安全は普遍的な判断に繋がっている。

 他方、安心は人間が抱く感情に根ざすことであると言う点で科学性とは遠く、むしろ心理学に近いと言える。心理は時々刻々と変化するし、人によって違った感情もある。その意味で普遍性は殆どない。

 しかし、ややもすると両者は混同して使われたりする。よくよく注意しておく必要がある。

 

7.2 100%安全であると言い切ることはできない

 安全は科学性と繋がっていると上述した。

 しかし自然科学だからと言って100%正しいことばかりでもない。時々は誤謬もあり理解不足もありと若干の不完全さはあるものである。だからこそ思いがけないようなノーベル賞的な科学的なブレークスルーがあったりするのである。

 このことは、100%安全であると言い切ることは実は難しいのだ。「ほぼ安全と言って良い」とは言えても、100%と言うのは全てを検証し尽くさない限りできない芸当である。正直言ってそれは不可能である。

 

7.3 100%安心であると言い切ることもできない

 一方、安心の方も、地球上にいる全ての人間が安心と思うことなどあり得ない。そこまで言わなくても、日本人が全員安心と思うことも不可能である。これは自然科学でないだけに尚更言い切るのは困難である。

 

7.4 4M規制にどう向き合うべきなのか?

 結局、安全も安心も不完全なのであるから、不完全さの下で4M規制に向き合うしかない。

 「それは本当に安全なのか?」とか「それは安心できることなのか?」と質問したところで、答えなど出せない。「判断できなきゃ駄目だ」でもないのだ。判断など難しいのは当然なのだ。

 そう覚悟して臨むべきであろう。

 以下では、どのようなことを考慮したら良いのか、の視点を提示しておく。

 

7.4.1 4M規制は人が決めたこと

 先ず、4M規制は決して神が定めたものではなく、所詮は人が決めた事に過ぎない、と考えることである。人が決めたと言うことは、人により変更するのも自由自在と言う訳である。

 

7.4.2 理想論だけでなく現実的にも考えることの必要性

 次は、この世を理想論だけで何とかしようと考えないことである。現実的に考えるからこそ次の道も描けると言うものである。

 

7.4.3  命に関わる用途かどうか?

 次いで、4.4で解説したように命に関わる用途は慎重にせざるを得ないと思うべきであろう。

命に関わる用途でない場合は、案外4M規制は形骸化していたり、価値が薄かったりしている可能性があり得る。

 

7.5 4M規制には科学が必要

 4M規制は右脳で考えるようなことではなく、誰でも納得感が抱ける科学が必要である。言い換えると、安全の視点で処していくことである。

 但し、科学が求められるのは一体誰なのか?、にも触れておく必要がある。

 

7.5.1 求める側にも科学性が必要

 ややもすると誰かに科学性を押しつけたくなるかも知れないが、双方にその責務は公平に負わねばならない。

 4M規制を求める側にも科学性が求められるのは当然である。

 

7.5.2 緩和したい側にも科学性が必要

 4M規制を緩和したいと思う側も、科学性を持ってその必要性を提案する義務がある。

 

8.  4M規制の克服策

 いよいよ本丸である4M規制の克服策を以下に沿って考える。

 

8.1 売り手側の事業部・営業の果たすべき役割

 ことの発端を担うのは売り手側の事業部や営業である。ここが動かない限り話は一歩も進むことはない。

 にもかかわらず、ここが動かないと言う話をよく聞く。この仕掛けの部分での尻込みは全てを制することになりかねないので、任務放棄は御法度である。又、このリスクを取らなければ4M規制のデメリットを背負い込み続けることになる。

 

8.2 4M規制緩和のための実働での費用負担

 4M規制緩和のための実働での費用負担もよく聞く話だ。

 4M規制の緩和を提案したところユーザーから「分かったけど当方でもそれに伴う実働も必要となるし、万一の場合のリスクも負うことになるからその負担をお願いしたい。それを了解して貰わないと賛同できません」と言われるそうだ。

 手短に言えば「では協力する見返りにこの原料の単価を要求に沿って下げてくれ」と言って来るのだ。

 しかし、売り手はここで引き下がってはいけない。これは人の弱みに付け込んだある種のタカリの根性である。

 こう言うべきである。「4M規制の緩和は貴社のためにやる必要があります。弊社が好き好んでやろうとしているのではございません。実働が必要となるのはお互い様ですが、貴社には既に実働の役目を負った社員を配置しておられます。彼らは給料に見合うだけ働くのは当然のことで、この提案で必要になることではございません。既に織り込み済みのはずです。又、リスクは慎重にお互いにテストすることで少なくする努力をする訳ですし、リスク負担も共有する性格のものです。万一のリスクを弊社だけが負う必然性はございません。」と。

 

8.3 何でも十把一絡げで片付けてよいのか?

 民間企業はお役所ではない。原則論だけで片付けることができるような甘い世界ではない。十把一絡げでやれることではないのだ。個々の現実を直視して、同じことは1つとしてないとの考え方で、個別解を探すことが肝要である。

 

8.4 命に関わる重大な用途

 命に関わる重大な用途とそれ以外は明確に区別して臨む必要がある。以下で具体的に触れていく。

 

8.4.1 命に直結する医薬品で、規制緩和が進行中

 4.4.1で医農薬の4M規制の厳しさを述べたが、その原則論も今では大きく変貌を遂げてきている。即ち、そのような用途でも4M規制の緩和は着々と進んでいるのである。

 但し、読者の予想の通り、例えば5年前の2013年でも米国では普及率は80%を超えているが、日本は世界からは大きく遅れているのが実態である。

 以下、少し解説しておく。

 

8.4.1.1 オーソライズド・ジェネリック

 既にご存じだろうが、先発医薬品を製造販売する製薬会社から特許権の許諾を得て、後発医薬品メーカーが販売するジェネリック医薬品のことだ。但し、下記のように3種類がある。

 1つ目は、先発医薬品メーカーのAPI・製法・技術・製造ラインを用いて製造し、後発医薬品メーカーが販売するもの。

 2つ目は、先発医薬品メーカーと同じAPI・製法を用いて後発医薬品メーカーが製造するもの。

 3つ目は、異なるAPIを用いて同じ製法で後発医薬品メーカーが製造するもの。

 即ち、最も肝心なAPIですら先発医薬品メーカー製のものと、化学物質名は同じだが先発医薬品メーカー以外で製造されたものとが許容されるように規制緩和が進んでいる。

 又、技術・製造ラインも、先発医薬品メーカーとは異なることも許可されるようになっている。

 更に、増量・賦形・薬効調整・中和などでAPIよりも多量に併用される各種添加剤も先発医薬品メーカーと同一でないもの(化学物質名は同じだがグレードやメーカーが異なる)も許容されるようになっている。

 勿論、生命に直接関わる用途なので全く自由に緩和されているのではなく、ジェネリック医薬品を国に申請する際に必要な試験のひとつである生物学的同等性試験の縛りは掛けられているのだが。

 要するに、元来は4M規制でがんじがらめにしておかないと安心できないと言う考え方で一切変更してはならないと言う大原則があったが、今では許可・申請・登録に求められる条件の1部である生物学的同等性試験の確認を経れば緩和できるのだ。より科学的に、より現実的に考えるようになってきていると言うことだ。

 

8.4.1.2 ジェネリック

 一方、ジェネリックは更に4M規制の緩和が進んでおり、勿論、APIは化学物質名が同じだが先発医薬品メーカ製ではないものである。

 各種添加剤も、化学物質名は同じだが先発医薬品メーカーで使われているのと同じメーカーやグレードではないものである。更には、化学物質名が異なる添加剤も許容されている。

 又、製造法も先発医薬品メーカーとは異なることが許されている。

 結局、オーソライズドジェネリック以上に同一性が緩和され、安心指向は弱められ、より科学性が重視された安全志向になっている。

 ちょっと蛇足だが、このような一連の規制緩和の背景には世界共通的に医療費の高騰があり、その対策の1つとして薬価の見直しの必要性があり、先発医薬品の単価を引き下げる必要に迫られていると言う事情がある。

 必然的に、APIの単価も下げる必要があり、添加剤類の単価も下げる必要がある。前者は著しく高価であると言う意味で重要視される。後者は局方品を使うと言う規制はほぼ温存されたままだが引き下げの必要性は残っている。

 この用途で使用される添加剤類は同じ化学物質名の一般工業品の単価とは著しく異なり高価となっていることにも驚かされる。勿論純度が高いとか不純物が少ないとか厳密な管理が必要など高価になる原因もあるが、筆者は不当に高価すぎると思う。定量的なコスト計算をしていないが、極めて高価だが極微量であるAPIと、APIに比べれば断然安価だが殆どを占めている多量の添加剤類から構成されているのだから、後者が占めるコストも案外大きく、薬価の低減の上ではこれへの抜本的なメス(規制緩和)も必要と感じる。添加剤類の聖域状態も問題ではないのか?と思っているのは筆者だけだろうか?

 

8.4.2 APIの製造でもできる緩和はやっている

 上述したようにAPI自体の4M規制は緩和されてきているが、更にその製造に使われる原料類の4M規制は果たしてどうなっているのだろうか?

 実のところ詳しく筆者は把握できていないが、多段階の反応を経て合成されるAPIであることから、APIから遠い初期段階の反応で使われる原料類では実質的な緩和が行われていると聞く。安心一色の考え方からすれば、多段階の反応を経ることで好ましくない不純物があるとしても多段階の精製機能が働くはずと言うそれなりの科学性が活用されていると言える。

 

8.4.3 法的に規定されたスペックの遵守で緩和

 このように4M規制が緩和されるための科学的な拠り所として最も大きいのは、使用する原料類のスペックが同一原料と言えるように満足できていることである。医農薬の分野では局方原料であることが求められるのだが、それは認可・申請・登録で厳密に規定されいる特定のメーカーに制限されるものではなく、判断基準は局方たるスペックに整合することであると言うことである。

従って科学性そのものである。

 因みに、筆者は食品添加物でこの科学性を活用した経験がある。勿論、問題は発生していない。

 

8.4.4 承認・認可・登録などまで遡って緩和を追求

 更には、原料の厳密な意味での変更に際して、ジェネリック的なアプローチではなく、原則論に則り承認・認可・登録などをやり直すと言う遠大な道もある。特に先発医薬品を製造販売する製薬会社においても薬価引き下げへの対応が求められているので、原料の多角化を意図する時の本質的な覚悟を聞かされることも多くなってきている。

 

8.4.5  永久に不可能として4M規制に甘んじる

 何の芸もないが、最後の道筋は、永久に不可能として4M規制に甘んじることである。

 しかし、上述してきたように最もリスクが懸念される用途ですら4M規制の緩和は着々と行われてきているのが現実である。いや、他の業界の人から見れば、驚愕するほどに、蕩々と進行中なのである。

 

8.5 命に関わらない程度の用途

 では、命に関わらない程度の用途では果たしてどうなのか?

 ここまで読まれた読者であれば、「医農薬分野よりももっと遙かに4M規制は緩和されているはず」と思ったに違いない。

 しかし、果たしてどうなのだろうか?

 感覚的であるが、多くの購買の方々から「ユーザーからの4M規制は非常に厳しい」と聞かされていることからすると、旧態依然として4M規制に拘り続けている領域が広大なのではないか?と筆者は感じる。

 以下では、元来規制は緩やかであるべきと思われる用途・業界での4M規制の克服策を述べる。

 

8.5.1 原料をガチガチに縛らないように注意

 このような用途・業界でも承認・認可・登録・売買契約のような場面がある。その時の留意点は、原料をガチガチに縛らない記述を心がけることである。

 製品を製造するために使用される原料類の記述が求められた場合、メーカー・グレード・商品名など唯一特定の会社から購買するしかないような記述を極力避け、一般化した化学物質名で表現するように努めるべきである。

 ここでの巧拙は、購買のBCPに取って禍根を残しかねない。自ら首を絞めないように注意すべきである。

 

8.5.2 関係社間のトップ同士によるトップダウン

 4M規制の壁は非常に高く重たいと聞く。

 個人で何とかできる代物ではない。自社の総力を挙げてユーザーに対峙しないと実効は挙がらない。

 そのための手段の1つは、関係社間のトップ同志によるトップダウンを活用することである。自社のトップに4M規制の緩和の必要性を訴えて動かし、相手方のトップの賛同を取り付ければ最も強い推進力になる。少々の社内の反対勢力があったとしても、トップの指令で封じ込めることができるからである。

 

8.5.3 関係社間で実務者同士による現実的な緩和

 トップ同志の賛同が得られないとすると、次に有力なのは実務者同士なら相互理解がしやすいと言うことである。

 具体的には、両社の品質保証部門、売り手側の事業部門・営業部門とユーザー側の購買部門、などである。

 

8.5.4 関係社間の技術者同士による現実的な緩和が起爆剤

 更に、関係社間の技術者同士で現実的な緩和を共有するやり方もある。両者であれば安心の要素は低くなり、安全のベースとなっている科学性を共感できる関係である。

 両者でデータに基づく科学的な検証を行い、安全を確認した上で、双方の社内の抵抗勢力を説得する流れにできる可能性がある。

 

8.5.5 科学的検証を踏まえて売り手側組織長のサイレントチェンジ方針

 4M規制の緩和にユーザーからの賛同の見込みが付かない場合は、サイレントチェンジがある。

 4M規制の緩和を何の根拠もなく行う事は勿論恐ろしくてできないが、自社内でデータに基づく科学的な評価を経て品質リスクは低いと確認できれば、製造に使用される原料類をコッソリと変更する、そのような大方針(ダマテンと称した)を取り付けることである。

 事実、筆者は、サラリーマン時代にいくつかの事業部長からこの大方針を取り付けて実行した経験がある。結局、何も問題は発生しなかった。勿論、そこそこ慎重な確認実験を行った結果として多種の原料の緩和を実現した。

 尚、「サイレントチェンジ」なる言葉は最近耳にした新語だが、世の中でもこの策が案外行われているからこその言葉であろう。

 

8.5.6 永遠に不可能として4M規制に甘んじる

 最後は、残念ながら、永遠に不可能として4M規制に甘んじる、ことである。

 しかし、筆者は「これでは仕事をしたことにはならない。4M規制と言う言葉を聞いて震え上がってはならない」と考える。

 

おわりに

 4M規制の現実的な克服策について考えて来た。

 このことは単にBCP、とりわけ購買のBCPとしての必要性に留まらず、その影響は大きく経営を揺さぶるものでもある。

 元来、民間企業はそれぞれが独立した自由な経営体であり、自らに相応しいビジネル領域と能力により社会貢献することで世の中からその存在を認められている。

 しかし、4M規制は企業間を相互に束縛する考え方であるが故に、度を超すと日本の製造業の国際競争力まで阻害しかねない。

 真剣に4M規制の克服をしないと日本の製造業は危ない。

 でも、ここまでお読みいただいた読者であれば、熱意と粘り強さでこの難関を乗り越えることができると確信する。心からエールを送りたい。

 最後に、ここまで辛抱強くお読みいただいたことに心から感謝を申し上げる。

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